大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)3492号 判決

被告人 鈴木保芳

〔抄 録〕

一、弁護人A及び同B両名作成名義の控訴趣意第一点について。

凡そ刑法第百八十一条所定の強姦致死傷罪は、姦淫の行為自体から人を死傷に致した場合のみならず、姦淫の手段である暴行脅迫に起因して死傷の結果を生ぜしめた場合をも含むものと解するのが相当であつて、原判示第一によれば被告人は、原判示被害者を姦淫しようと企て、同人の入浴中の原判示浴室に入り裸となり、逃げまどう同人を浴槽内に突き落したり、流し場に同人を仰向けに押し倒して馬乗りになり、その肩や手を押えつけ、唇を噛むなどの暴行を加え、かつ、「かたわにしてやる」などと申し向けて脅迫し、強いて同人を姦淫しようとしたが、同人が烈しく抵抗したのと、そのため外部の者に察知されて犯行が露見することをおそれ、その目的を遂げなかつたものであるが、その際、同人の右前膊部に静養約二十日を要する内出血を伴う打撲傷を与えたというのであるから、原判決は右被害者の負傷は被告人の右暴行に起因して生じたものと認定し、これに対し刑法第百八十一条を適用したものであることが甚だ明瞭である。然らば原判決のこの法令の適用は洵に正当であつて、右法条の罪の成立については姦淫行為自体と傷害との間に因果関係の存在を必要とすることを前提として原判決のこの点の法令の適用を攻撃する所論は、全く独自の見解というの他なく、これを採用するに由のないものである。次に所論は、原判決が前記所為について刑法第百八十一条第百七十七条の適用を示したのみで同法第百七十九条の適用を示さなかつた点を判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤であると主張するので、この点について考えてみると、なるほど、本件犯罪につき原判決の法令の適用は所論のとおりであつて原判示事実は前に叙述したとおりその姦淫行為は未遂に終つていることが認定されているから、この所為に対する擬律としては刑法第百七十七条の適用を明示する以上同法第百七十九条を明示しないことは原判決の瑕疵としなければならないけれども、本来刑法第百八十一条の罪は、同法第百七十六条乃至第百七十九条の罪を犯し、因て人を死傷に致した所為をそれぞれ包括的に独立の一罪を構成するものとしたものであるから、その犯行に対する法令の適用としては単に同法第百八十一条のみの適用を示せばそれで十分であつて敢えて同法第百七十六条乃至第百七十九条の適用を示すことを不可欠の要件とするものではないと解すべきものであるが故に、原判決において刑法第百八十一条の適用を明示してある以上法律の要求する法令の適用はこれをもつて足りるものであつて他は不必要なものを掲げたに過ぎない結果になるのである。この点から考察するときは、原判決の前記瑕疵は、未だ判決に影響を及ぼすことの明らかなものとは到底認められない。従つてこの点に関する所論も採用することはできない。従つて論旨は、理由なきに帰する。

二、同第二点について。

刑事訴訟法第二条にいわゆる現在地とは、被告人が公訴提起当時現に在る土地を意味し、その現に在ることが被告人自身の任意に基く場合であると強制手段により(この場合の強制が適法のものであらねばならないこと勿論である)現在する場合であるとを問わないものと解するのが相当である。記録によれば本件において被告人が原裁判所の管轄に属する土地に公訴提起当時現在したのは洵に所論のとおり逮捕これに続く勾留によるものであることは明らかであるが、右逮捕並びに勾留はいずれも適法な令状に基くものであることも亦記録上明らかであるから、右述べるところにより原裁判所が本件土地管轄を適法に有するものといわなければならない。所論は、右と異なる独自の見解に立つて原裁判所の管轄を否定するものであるから、採用のかぎりでない。論旨は理由がない。

註 本件破棄は量刑不当。

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